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「揺れる日米安保・下」 日経新聞 09年12月16日 朝刊

鳩山政権の普天間問題に関する決定。米政府当局者は冷ややかだった。

「イズ・ノー・ディシジョン・ア・ディシジョン?」(何も決めないことを決定といえるのか)

鳩山政権をめぐる話題はワシントンではもはや笑い話のたぐいだ。日本通のグリーン元米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長はかみ砕いて解説した。

「現行計画以外に選択肢はないのだから、決定を遅らせるのは危険な戦略だ。米軍再編の合意全体を崩壊させかねない」

オバマ政権内に来年迎える日米安保50年を祝う雰囲気は皆無に近い。

フィリピンでは1986年に親米マルコス政権を倒して就任したアキノ大統領のもとで対米関係が悪化。相互防衛条約は空洞化した。米西戦争で統治権を得てから通算すると1世紀近く駐留してきた米軍は91年に撤収を決めた(完了は94年)。

ルソン島のクラーク空軍基地とスービック海軍基地は米軍にとって国外最大の軍事施設だった。国防総省はアジア太平洋における安保戦略上、不可欠な存在と主張。だが当時のホワイトハウスは、火山噴火で損傷した施設の再建費も考慮し、南シナ海の防衛線をグアムまで後退させた。

軍事力の空白を突いたのが中国だ。帰属が不明瞭な南沙、西沙などの島々に次々に部隊を送って実効支配。慌てたフィリピンは米軍呼び戻しに動いたが、米側は「今さら」と応じなかった。かろうじて2000年に共同軍事演習が復活した。

クラークなどにいた部隊の多くは沖縄に移った。現在は嘉手納空軍基地が国外最大の施設だ。その軍事力が空白になれば東シナ海でも米軍は制海権を失う。沖縄が米軍にとって替え難い「太平洋の礎石」ではあることは間違いない。

ただ、米中関係はここ数年、微妙に変化した。米国が米国債の最大の買い手となった中国と軍事衝突する姿はもはや想像し難い。一方、日本にとって東シナ海は相変わらず重要な防衛線だ。

米財政は火の車。無敵の戦闘機F22ラプターの生産も中止するほどだ。日本が思いやり予算を出していることで、米軍は本国にいるよりも日本にいる方が維持費が安い。鳩山政権が掲げる思いやり予算減額が実現すれば、米国で「なぜ我々が日本を防衛しなくてはならないのか」と言う声が高まるのは確実だ。

03年のイラク戦争改選時、米軍は隣国トルコのインジルリク基地に駐留する第34航空戦闘団に出動を命じた。ところが、施設の管理権を持つ同国政府が基地使用を拒否。米軍は戦闘団を急きょ他国の基地へ移動させるなど作戦見直しを余儀なくされた。米国はその後、近くのルーマニアに米軍基地を設けた。

04年の在韓米軍再編では1万を越す兵力削減に注目が集まった。だが米軍にとってそれ以上に重要なのは北朝鮮との軍事境界線周辺から、ソウルより南に移すことだった。韓国防衛の義務は果たす。だが韓国軍より先に我々が死ぬのはおかしい。米軍にはそんな議論があったという。

「日本が『米軍は出て行け』というならば出て行く」。06年の日米合意の当事者、ローレス元国防副次官は語る。米国内でくすぶりだした同盟縮小論は日本に言うことを聞かせるための脅しだけとはいい切れない。

「合意がある、と言うのが我々の立場だ」

ギブス米大統領報道官が現行計画通りの普天間移設を強く促した7日の記者会見。質問したのはヘレン・トーマス氏だった。現在89歳。ケネディ政権以来、ずっとホワイトハウスを担当してきた最長老記者だ。質問はこうだった。

「今日は真珠湾攻撃の日だけど、基地移設を求める日本人への大統領の姿勢はどうなの」

現在の日米関係を聞くのに半世紀以上も前の戦争を持ち出す。日米開戦時すでに21歳だったトーマス氏には、日本が確固たる存在と信じる現在の同盟関係も単なる歴史のひとこまにすぎない。(ワシントン支局長 大石格)

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